井上陽水とサングラス

ラジオやシャッフルプレイのiPodなど、ランダムな選曲のなかで不意に井上陽水の声が聞こえると、パッと空気が変わり、その声の吸引力に耳がそば立ち、しばし聞き入ってしまう。
たとえば「決められたリズム」。
この何でもない歌詞、ただの言葉遊びが、とても深淵に響いて心地よくなるのはその声質と歌唱技術の賜物。
他者が歌っても名曲には聴こえないだろう。歌そのものが人の心を打つ、そんなふうな楽曲には作られていないと思うから。

「リバーサイドホテル」、「なぜか上海」、「青空ひとりきり」なんかもそう。
言葉上ではなるべく具体的な説明を避け、聞く者にイメージの余白をたっぷり与えてくれる。そしてあの、漆黒のサングラスまでもが表情を奪う演出を担い、聞く者はその分思いきり声に酔うことができる。声をいかに際立たせ、聞かせるか、映像詩の如し、声ありきの作品作り。

天才のセンス。

音楽をはじめる前からとても気になる存在だったけど、自分で音楽をやるようになってからは、もう、好きとか嫌いとか言う遥か以前に、その唯一無二の存在のスゴさにいっそう感服なのです。